「もしかしたら、過去の私は、今日ここで由紀ちゃんに勧めるためにこれを入れてもらったのかもしれない」
十和子先輩がそう言いながら笑ったから、その笑顔が最高に綺麗だったから、あたしは思わず息を飲んだ。
「そうだったとしたら、あたしも凄く嬉しいです。先輩、本当にありがとうございます!」
あたしは十和子先輩から受け取った本を、大切に大切に、宝物みたいに抱き締めて、十和子先輩にお礼を言う。十和子先輩はそんなあたしを、優しい笑顔で見下ろしていた。
自宅の小さな自分の部屋。派手な色柄のベッドカバー。壁には同じグループの子達と撮った写真で作ったコラージュ。その周りは造花で飾ってある。一応キレイ好きな部類だし、片付いてはいるんだけど、なんとなく落ち着きの無い、原色の溢れる部屋。
次の休みには模様替えでもしようかな? 目指すのは落ち着いてるのに凄くオシャレで、センスの良い部屋。だって、きっと十和子先輩の部屋はそんな部屋だろうから。
そんな事を少し考えた後、あたしは今日借りた本を取り出した。そんなに長くはないみたいだし、挿絵も可愛い。これなら最後まで読めそう。十和子先輩があたしに勧める本をこの本にしたのは、読みやすい本だから? それとも?
この本だってことに、何か意味が有るのかなぁ。もし意味が有るのだとしたら、あたしにその意味を見出だせるのかなぁなんて事を考えながら、あたしはページをめくっていった。
勝手なイメージで童話なんだと思っていたけれど、少し違ったみたい。普段本を読まないあたしには、ハッキリとは言い切れないんだけど、ただの童話ではないみたい。それに思っていたよりも読みやすくて、毎日少しずつ読もうと思っていたんだけど、結局そのまま読みきってしまった。わりと薄い上に挿絵も有るからそんなに文字数は多くないっていうせいも有るんだけどね。
でも……結局、十和子先輩はあたしに勧める本を何故この本にしたのかっていう部分は解らなかった。ただ、あたしはこの本を好きになったし、十和子先輩はやっぱりあたしの女神様なんだっていう思いだけは深まったんだけどね。
十和子先輩と出会って、髪を黒くして、メイクも服装も、自室だってシックにして、読書もするようになって……。あたしが少しずつ十和子先輩の色に染まっていく。もっと十和子先輩に近付きたいけれど、どんなに頑張っても永遠に届かない聖域でもあって――。
でも、だからこそ、十和子先輩はあたしの女神様であり続けるの。