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生きることの苦手なあなた、救うことのできないあたし-3

彼女は素顔のあたしを気遣って、合コンが始まる前に自分の化粧ポーチを貸してくれた。あたしは遠慮がちにそれを受け取って、仕事以外ではもう何年ぶりだかわからないくらい久しぶりに化粧をする。時間が無いから、ささっと適当にだけどね。

ファンデーションのコンパクトを開くと、その中の粉っぽくほんのりと曇った鏡には、傷みきった長い髪に顔を包まれた、幸の薄そうな垢抜けない女が映っていた。昔のあたしは、もう少し綺麗だったように思うんだけど、あの人といる時間とともに、あたし自身も輝きを失ってしまったみたい。

あたしが時間を気にしながら化粧をしていると、今日の合コンに参加する残り二人の女の子がやってきた。 あたし、その娘たちの目にどう映っているのかな? 合コンの直前に、人の化粧ポーチを借りて、慌てて化粧をしているあたしはどう映っているのかな?  着飾った彼女たちの目には、首のあたりがよれて伸びてしまっているようなTシャツを着て、ボサボサの髪をしたあたしはどう映っているのかな? 考えても仕方のないことだけど……。やっぱりどうしても、惨めに思えてしまうから……。

そうこうしているうちに時間はたって、中途半端な顔だけど、あたしは化粧をやめた。 男の人達と合流して、合コンが始まる。



……あぁ、やっぱり。そうだよね。あたし以外の女の子達は、みんな可愛い服を着て、綺麗にお化粧して、髪もセットして……。それに引き換え、あたしはこんなだもの。ボサボサの髪に、よれよれのTシャツに、中途半端な化粧。

「彼氏以外の男も見ろ」

って言われたってさ、その男の人達は、あたしと他の女の子を見る時の目が違うじゃない。 劣等感。これしかないよ。

あたし以外のみんなは、笑顔で合コンを楽しんでいるけれど、あたしは卑屈な顔しかできない。誘ってくれたのに、悪いとは思ってるけどさ。 あたしは、みんなが楽しくお酒を飲んでいる中、下を向いて、ただ水滴の滴り落ちていくグラスを見つめるだけ……。

みんなが少しずつ酔っていく中で、あたしをここに連れて来た彼女は、車だからソフトドリンクを飲んでいて、あたしの様子を少し気にしているみたいだけど、それもあたしにはどうでも良くて……。あたしはただ早く時間が過ぎれば良いと、それだけを考えていた。

あたし以外のみんなが、会話に花を咲かせている時に、あたしの携帯が鳴った。あたしはみんなに頭を下げて、席を外して電話に出る。

「……え? はい。そうです。はい」

……気付くとあたしは、合コンなんてそっちのけで、みんなに挨拶も何も言わずに、走りだしていた。



脚と横腹に痛みが走る。夜でも明るい繁華街を抜け、街頭だけが規則的に並ぶ道へ。上り坂が少し急で鼓動が早いけれど、それでもあたしは止まらずに、この暗い夜の道を走り続けた。もう少し、あと少し……。この坂を上りきったら目的地。今だけは、あの娘達みたいなヒールを履いていなくて良かったと思える。

息をきらせてたどり着いたのは総合病院で、あたしが必死に走ったのは……。彼がここにいるから。病室へ行くと、彼は青ざめた顔で白く硬いベッドへ横たわっていた。生きているけれど、あたしが目の前にいてもあたしを見ることの無い彼。

 ただ横たわっているだけの彼。
 彼は……。
 彼はあたしのせいで命を絶とうとした。狂言なんかではなく、本気で命を絶とうとした。
 あたしの……せいで…………。

あたしはベッドに横たわる彼に縋り付いて、ただ、ひたすらに泣く。流れる涙のままに、ただひたすらに。

ごめんなさい。あたしはもうどこにも行かないから。あなただけを見ているから――。

退院したあなたは、やっぱり変わる事なんてなく、今日も手首を切るし、処方されたお薬だって、ちゃんと飲まずに鼻から吸い込んじゃうし、それを注意すれば死ぬふりをする。 おまけに仕事へ行こうとするあたしに泣きながら縋り付いて、あたしを仕事に行かせたがらないし。 あたしがお金を稼がないと、あなたの通院費だって出せないのに……。

でも。 それでもあたしは、これから先ずっと。 あなたのそばにいるから――。

-END-

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