アザミミチナミダミチ

あの日でできた家-1

この道を通るのはいつぶりだろうか。年末のろくに進まない道で、型の古い軽自動車のブレーキを踏みながら考えた。思い出そうとしたところで、やはりどうでもいいことだと思い直し、ほんの僅かにだけ進んだ前の車に合わせて、ブレーキから足を離し距離を詰める。

この道の渋滞を抜け、そこから脇道へ入ったら、私の産まれ育ったあの町へとはいる。私の運転するこの車は、実家へと向かっているんだ。

別に年末に実家へと帰ることくらい、ほかの人にとっては当たり前のことかもしれない。だけど、私は家を出てからは避けるようにしていた。それをあえて今こうして実家へと向かっているのは、これをしなければ安心して年を越せないだろうという、不安のような使命感のようなものが私を突き動かしているからにほかならない。



久しぶりに訪れた実家は、惨憺たる有様だった。鼻につく異臭、ありとあらゆる訳のわからない物で埋め尽くされたそれは、家と判断して良いものか迷うほどには汚らしかった。

数日前にニュースで見たゴミ屋敷と、いい勝負といったところだろうか。あのニュースを見て私は、ここへ来なければいけないと、そう、感じたのだ。テレビに映っていたのは私の実家ではなかったが、ニュース内でインタビューを受ける近隣住人の迷惑そうな顔や、ゴミ屋敷の持ち主が異常者として扱われるそのさまに、私はこの家と、自分の母の姿を見たのだ。母が異常者として晒されてしまうその前に、私はここを片付けなければならない。

玄関先をも埋め尽くすゴミを掻き分け、私は白い息を吐きつつなんとかドアの前へと進む。そして、濁った色のドアの前へとたどり着くと、私は今も使えるのか解らないインターホンを押した。すると、どうやらこれは生きていたようで、この場所には似つかわしくない軽快な音が響いた。

しばし待っていると奥のほうから何かを引っ掻き回すような音と、何かを引きずるような音が聞こえ、そしてその音は徐々にこちらへと近づいているのがわかった。音は私と家の中とを隔絶するドアの前で止まり、そしてゆっくりとドアが開く。中から現れたのは間違いなく私の母だったが、その姿は山姥のような汚らしい老女といった風体だった。

白髪の多い髪はいつから切っていないのか、尻の下あたりまで垂れ下がっていた。その髪はひどく絡まっていて、そして自らの脂で固まっていた。着ているものは洋服の形をしたボロ布と言って良いくらいにひどく汚れていて、元の色が解らない有様だった。深く刻まれた皺には垢がこびりつき、えずくような酷い臭いがした。

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