アザミミチナミダミチ

あの日でできた家-5

翌朝私はまた実家へと向かった。昨日の掃除の続きをするために。あの家を埋め尽くしている、ゴミの山を捨ててしまうために。実家へたどり着くと母は玄関の前に座っていて、目の前に立つ私をじろりと睨みつけた。母が私のこの行為を嬉しがっていないことくらい昨日の時点でわかっていたけれど、それでも私はこの家を片付けてしまわねばならないのだ。それが私の、私なりの愛の示し方だから。

「どうして、こんな酷いことをするの? 私の大切なものたちを捨ててしまうの?」

私はそれには答えず、母を無視して家の中へと入った。そんな私を母は止めようとはしなかったから、私はそれを母の答えだと受け取った。

私は昨日と同じように、ただひたすらこの家を埋め尽くすゴミ達を捨て続けた。母はそんな私を呪うような目で見つめながら、小声でずっと何かを言っていた。母のその山姥を思わせる風体や、呪うような目つきから、それは何か呪文のように聞こえた。あえて耳を澄まそうとは思わなかったから、母のつぶやく言葉のほとんどは何を言っているのかわからなかったが、その中に私の名前が紛れ込んでいることだけはわかった。

だからといって私はこの行為をやめようとは思わないし、母に私のしていることの意味をわからせようとも思わなかった。ただ、私はこの家のゴミを捨て続けるだけだ。



夕暮れ時に、大方のゴミを捨て終えた。母にとっては宝物で、私にとっては思い出の残骸であるゴミに覆われていたせいで、日の目を見ることのなかった畳が久方ぶりにその姿を現した。畳はすっかり腐っていて、部屋からゴミはなくなったものの、それは美しいとは到底いえない光景だった。何かをつぶやき続けていた母は、いつの間にか黙り込んでいて、ただ、虚ろな目で虚空を見つめていた。

「このゴミは、業者さんに引き取ってもらうから。予め電話してあるし、もうすぐ来るよ」

「そう」

母は私の方を見もせず、ただ、そう言った。外はもう暗くなっていて、空っぽになった部屋が寒々しく、私と母の白い息がそれをまた強調した。

しばらく待っていると頼んでいた業者がやってきて、まとめていたゴミ袋たちを荷台へと運んでいく。母はそれを何も言わずに見ていた。ゴミ袋を荷台へと移し終わり、私は業者の男性へとお金を払う。少しばかり痛手だったが、これでこの家と母がさらし者にされることはないと思えば、納得のいく出費だ。

私が財布をしまい、業者の車が立ち去った後、母はぽつりと言った。

「もう、来ないで」

私は少しの間うつむいて押し黙った後、こう、答えた。

「うん、わかった。もう、来ないよ」

母がずっと大切にして、今も見つめ続けているのは今の私ではなくあの日の私で、あの日の私はもういない。そして今の私は母にとって、あの日の思い出でできたこの家の宝物たちを、すっかり捨て去ってしまった許されざる存在なのだから。

-END-

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