アザミミチナミダミチ

白檀とミルク

アジアンテイストの雑貨店に入ると、思い出す人がいる。ほっそりとした躰に、黒い髪。こんな感じのお店で買ったのだろうか、アジアンテイストのアクセサリーを、いつも複数身につけていた。それから彼女はいつもオリエンタル系の香水をつけていて、彼女からはこの空間とよく似た匂いがした。

彼女の香水、ベースは白檀だろうか。お香のような、オリエンタルな香り。複雑で、少し癖のある匂い。私は不思議とその匂いが好きだった。それは、彼女から香っていたから、もしかしたら、そういう理由だったのかもしれない。

その彼女と、私は今日久しぶりに会う。何年ぶりだろうか?

彼女は私と会わない間に、結婚して、子供を産んだ。私は彼女が結婚したときは地元を出て遠方に住んでいたため、彼女の結婚式には出席できなかった。そのせいか、私の頭の中に浮かぶ彼女の姿は、いつも少女の姿をしていた。彼女がもう少女ではないことくらい、わかっているはずなのに。

私の中に存在する彼女の姿が少女であるせいか、私まで少女に戻ったような、そんな気分で化粧をした。いつもアクセサリーを複数つけていた彼女を思い浮かべて、私も華奢なアクセサリーを重ねて付けることにした。

彼女は今どんな姿をしているのだろう? きっと、今も美しいということには、変わりないだろう。



久しぶりに会った彼女は当然もう少女ではなかった。細身だった躰は子供を産んだせいだろうか、幾分ふくよかになっていて、アクセサリーなどは一切身につけておらず、飾り気のない服を着ていた。何よりも、彼女からあの匂いがしなかった。

あの、白檀をベースにした、オリエンタル系の香水。その匂いこそが、私のイメージする彼女の匂いだったというのに。代わりに今の彼女からは、ミルクと、赤ん坊の匂い、それから生活の匂いが混ざったような、そんな母親の匂いがした。

彼女はもう少女ではなく、ひとりの母であり、彼女の姿も匂いも母親の、母親たる姿と匂いをしていた。それは当たり前のことで、私自身わかっていたはずなのに、少しばかり物悲しい気分になった。

「お洒落だね。さすが都会の人って感じ」

彼女は私にそう言った。私自身は何ひとつとしてあの時から変わっているつもりはないというのに。その瞬間、気付いた。今の私と彼女は、それぞれ違う場所に立っているということに。

それは当たり前のこと。当然のことなのだ。ただ、私が気づこうとしなかっただけ。



私はこれからも、アジアンテイストの雑貨店に入るたびに、今はもういない少女である彼女の姿を思い浮かべるだろう。

ミルクと、赤ん坊と、生活の匂いの混ざった、そんな母親の匂いをふと嗅いだ時に、私が何を思い浮かべるかは、今は考えないでおくことにしよう。

-END-

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