アザミミチナミダミチ

ヌバタマノカミノカノジョ-1

早朝。まだ薄暗い時間に起き出して、あたしの武装は始まる。グレーの大きなカラコンを入れた後、化粧に取りかかった。

顔の立体感を演出するためにファンデを二色使いしてのベースメイク。アイシャドウも立体感を意識したグラデーションに。

上側のアイラインは漆黒のリキッドでしっかりと。目尻は長めに。睫毛の隙間と粘膜はジェルで埋める。目頭には慎重に切開ラインを入れて。下側は茶色のシャドウで目尻側をぼかす。

上側のつけまは二枚重ね。下側のつけまは下用のは物足りないから、上用の中でナチュラルなものを下用として使っている。それらを、専用のピンセットで慎重に貼り付ける。上側は目尻からほんのわずかだけわざとはみ出させる。やり過ぎると変だから、ほんのわずかだけ。こうして目の横幅を少し延長。下側は目頭から黒目の辺りまではきっちりと目のラインに合わせ、目尻は目のラインより少しだけ離す。離し過ぎると変だから、これも慎重に少しだけ。

眉はペンシルと眉マスカラとパウダーを駆使して、ミルクティー色の髪に合わせつつも、いかにも書きました。という仕上がりにならないように意識して作りあげた。

ハイライトにローライト。チークはリス毛のブラシを使ってふんわりと。リップは立体感が出るよう、二色をブラシで乗せてからグロスを塗る。こうしてきっちりと仮面のようなドールフェイスを作り上げた後、髪のセットに入る。

きっちりとブロッキングしてからお姫さま風の巻き髪を作り上げた後、今日の制服のコーデを考えることにした。あたしの通う高校には制服は存在しない。けれど、制服こそが女子高生を彩る最強の服だと思ってるから、あたしはいつも制服っぽい服を着ていく。もちろん、制服が無いからこそ毎日コーデは変える。少し迷ったあと、シャツの色を普段あまり着ない薄紫に決めて、リボンやスカートはそれに合わせることにした。

うん。可愛い。全身鏡の中には最強に可愛い女子高生。今日も絶対に一番可愛いのはあたしだね。

こうして、実に二時間もの時間をかけて、あたしは鋼の装甲を作り上げた。それは今日だけじゃない。あたしは毎日早起きをして登校前にきっちり武装している。

それにはもちろん理由がある。男はその理由を男受けのためだと思ってたりするんだよね。そんで、男はナチュラルメイクの方が好きなのに女はバカだとか、斜め上なことを言ったりしてさ。少なくとも、あたしが毎朝早起きして時間をかけて武装するのは、男受けのためなんかじゃない。それは、女の世界での地位を守るため。



教室の中にいつものグループがそろうと、毎朝恒例の儀式が当然のように始まった。

「おはよう。由紀ちゃん今日も可愛い。今日はシャツ紫なんだね。可愛い。由紀ちゃんはどんな色でも似合うねぇ」

「さなえちゃんこそ可愛い。今日は髪アップなんだぁ。アップも超似合うー!」

「あ、リカおはよ! カラコン変えたのぉ? 超可愛い!」

笑顔でなごやかにお互いを誉めあうという儀式。絶対にけなすような言葉は口に出さない。けれど、目はじっとりと相手の粗を探している。これは静かなる戦いであり、この戦いに敗れればあたしの地位は下がる。あたしの武装は、この戦いのため。

グループ内で行われる毎朝の儀式を終えて席についた頃、黒髪セミロングでナチュラルメイクの、清楚さを作り込んだ女が登校してきた。

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