アザミミチナミダミチ

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そろそろ季節が変わるから、また服を買わなくちゃ。 十和子先輩行きつけのショップはあたしにはちょっと高いから、金銭的に少しキツいけど、シーズン毎に服を買うのは女のたしなみだしさ。 そう思って、あたしは十和子先輩が教えてくれたショップに足を運んだの。

あぁ、内装も、置いてる服も、客層も、接客業である店員ですら、やっぱりこの店はあたしを威嚇しているように感じてしまう。 上から下までこのショップの服でコーディネートして、髪型もメイクも浮かないように頑張っているのに、やっぱり場違いな気がする。 相変わらず店員はあたしを見下した目で見てくるし、正直、居心地悪い。 でも我慢我慢。

それにしても、十和子先輩の行きつけのショップのはずなんだけど、店内で十和子先輩に遭遇した事は今までに一度も無くて……。 十和子先輩が着てたのと同じ服をこのショップで見つけたから、ここが行きつけだっていうのは確かみたいなんだけど。 まぁ、居心地悪いからあたしはあまり頻繁には来ないし、十和子先輩だって、服を毎日は買わないだろうから、きっとそのせいなんだろうけど。

いつもあたしは居心地の悪い店内で、あたしを見下しながら接客する店員をうまくかわしながら新しい服を探すんだけど、今日はちょっと違う。 これはあたしがショップに入った瞬間に目についた事なんだけど、今日さ、あたしよりも場違いな人がいるんだよね。それは、若い男の人。髪は明るく染められていて、でも根本が伸びてプリンになってる。

顔は一応イケメンの部類に入るかな? ズボン下げすぎで下着がかなり見えてるし、なんか全体的にこのお店には場違いなんだよね。 このお店に来ている他の誰かの彼氏か何かだろうか? このお店に来てるような人って、こういうタイプの男の人とは付き合いそうにないんだけどさ。

なんとなく様子を伺っていると、その男の人の連れはどうやら試着室の中みたい。 どんな人だろうか? あたしは好奇心から試着室に視線を向けていた。

しばらく待っていると、試着室のカーテンが開いた。 そこから現れたのは……十和子先輩だった。

じゃあ、このプリン頭の腰パン男が十和子先輩の彼氏?あぁ、十和子先輩は女神様でもなんでもない、ただの女だったんだなって。 彼氏がいた事は別に良い。その彼氏が十和子先輩の隣には似合わない男だった事も別に良い。 ただ、鼻にかかった声出して、男に甘えてしなだれかかる様な女だったのが嫌なだけ。



あたしは何も買わずに店を出て、携帯を取り出した。 アドレス帳からいつもあたしの髪を切る美容師……啓ちゃんの名前を素早く探しだし、電話をかける。

「あ、啓ちゃん? 今から行って平気?」
「は? 平気だけどお前この前来たばっかじゃん」
「カラーよろしくぅ」
「はぁ!? 黒にしたらしばらく色入んねぇって言っただろ!」
「美容師なんだからなんとかしてよ! じゃ、今から行くから」

十和子先輩が女神様ではないとわかった以上、あたしが黒髪にしている理由なんて、もう有りはしないのだから――。

-END-

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