アザミミチナミダミチ

合体-2

何も答えない彼女に向かってそう言うと、今度は彼女の服を脱がしていく。別に今から彼女と致すとかそういうわけではなくて、シリコンでできた人形である彼女は、少しばかり汗っかきなんだ。体がシリコンだからオイルが染み出して、べとついてくる。それをを抑えるためには、俺が定期的に彼女の全身ににベビーパウダーをはたいてやらないと。

彼女の定位置である薄いベージュのソファーに座った彼女を俺はそっと抱きかかえベッドへと運ぶ。彼女はとても重くて、運ぶのが辛い。いや、体重自体は生身の女よりも軽いはずなんだが、自分の意思というものがない彼女は、上手く体重を分散させることができない。人間の女であれば移動は自分の足でできるし、戯れにお姫様抱っこなんかをするにしても自然とうまく体重を分散してくれるもんなんだが、魂をもたない彼女にはそれができないせいか、生身の女よりも軽いはずなのにやたら重く感じるんだ。

自分の体を自分で支えられない彼女の体を上手く支えながらベッドまで運び、そして彼女の桜色のパジャマのボタンを一つずつ外してゆく。この桜色のパジャマというのも彼女がラブドールが故の俺なりの工夫なんだ。人間であればシャツのボタンをひとつずつ外していくなんてのは煩わしいが、ラブドールである彼女の体は人工の骨格に肌はシリコン、内部には軟質ウレタンフォームが詰められている。

よく出来てはいるんだが、やはり作り物は作り物だ。生身の人間よりも関節の可動域は狭いし、また、シリコンは摩擦には強いが引裂きには弱い。無理に動かせば脇が裂けてしまう。だから、セーターやTシャツなんかのかぶるタイプの服は、普段は着せていない。

色が桜色であるというのも、彼女がラブドールであるため。色の濃い服は色移りしやすい。彼女の肌に、服の色が移ってしまう。が、白いパジャマというのはあまり売っていないし、売っていることは売っているんだが、白で前あきのものは俺好みのものが見つからなかった。まぁ、ほんのりとした桜色で彼女の肌の色調とも近い。着せる前に洗濯もした。色移りの心配もないだろう。ということで、彼女の普段着は桜色のパジャマになったわけだ。

その彼女の桜色のパジャマのボタンをすべて外し終わり、そしてめくると彼女の背中に腕を入れ、彼女をそっと持ち上げた。それから、そっとパジャマの上着の袖を肩から外してゆく。動かない彼女の服を脱がしていくのは色っぽいというよりも、それはさながら介護のように思えた。

ワイヤーの入ったブラジャーはシリコンにワイヤーの跡が残ってしまうので、俺は普段彼女にブラジャーは着せていない。人間の女と違って、彼女にとってブラジャーはただの装飾品でしかないのだから。

上を脱がせたあとは、下も脱がしてゆく。彼女の腰をそっと持ち上げたあと、パジャマのズボンのゴムに手をかけ、そっとずり下ろしてゆく。それから片足ずつパジャマを抜き取り、ズボンを脱がし終わった。パジャマと同じ要領で、純白の下着も脱がせると、オプションで植毛にしたアンダーヘアが顔を出した。

これでようやく彼女の全身にベビーパウダーをはたくことができる。俺は彼女に背を向けると散らかった部屋からベビーパウダーの容器を探し出し、彼女の方へと向き直った。毛足の長いパフを使い、彼女の全身にくまなくパウダーをはたいてゆく。脇の下もバストの下も太股の間や足の裏まで、それこそくまなくパウダーをはたく。

仰向けの状態ではたける部分にはたき終わったら、彼女をそっとうつ伏せにして、またパウダーをはたく。こうして、彼女の全身に定期的にパウダーをはたくのは結構な手間なんだが、彼女自身が感謝するわけでもない。

「ほら、終わりましたよ。……ったく、とんだお姫様だぜ」

彼女は当然何も答えないが、俺にとってはその無言が心地よかった。

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