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あたしの愛したガラスの瞳-1

あたしの住んでいるこのアパートの一室には、人形が沢山置いてある。部屋に置いてあるのは、ガラスの瞳をした、ややリアルな作りの人形たち。少女の人形。少年の人形。女性の人形。男性の人形。また、すっきりとした美人顔の女の子や、目が大きくて可愛い顔の女の子。中性的な美少年に、キリリとした顔の少年。凛々しい青年に、思わず見惚れる美青年。イケメン、美丈夫、男前、それから……とにかくそれぞれにタイプの違う様々な人形たちであたしの部屋は埋め尽くされていた。それらはあたしが衣食住を切り詰めて買い集めた人形達で、あたしは毎日のように彼等の写真を撮っていた。

今日はどの子の写真を撮ろうか? あたしは人形達を見回して、最近お気に入りの彼の所で視線を止めた。人形は生き物では無いから、表情が変わるはずは無いんだけど、写真を撮る時の角度や光の当て方で、かなり表情が違って見える所が面白い。

特に彼は、造形に僅かな歪みがあって、左右非対称の顔をしていた。 左側の口角の方が右側よりも少し上がっていたり、目の開き具合や二重の幅も少し違う。不良品という程のレベルではないけれど、通常こういう造形の歪みを好意的に見る人はあまりいないだろう。

けど、あたしはこの歪みがあるからこそ、彼は他の人形達よりも表情豊かに見えるんだと思う。それこそ彼を気に入っている理由。

あたしは彼を写真という世界に切り取る。その微妙な造形の歪みが他の子には無い複雑で様々な表情を生み出して、あたしは夢中でシャッターを切った。ファインダーを通して見える、彼の金色の髪の毛の下には、透き通った碧いガラスの瞳。僅かに角度を変えるだけで、如何様にも表情を変える。あたしはそんな彼に心底夢中だった……。



あたしは今日も仕事を終えて、家路を急ぐ。早く帰って可愛いうちの人形達に疲れを癒してもらいたいし、写真を撮りたい。どの子もみんな可愛いけれど、やっぱり彼かな。今のあたしは彼に夢中だから。 そんな事を考えながら歩いていると、ふと、金色の髪をした異国の青年が歩いているのが目についた。

遠くて顔はよくわからないけれど、何となく彼に似ているような……。あたしがその青年を見ていると、その青年はあたしの方へ歩いてきた。少しずつ青年との距離が縮まる。青年の顔は近付けば近付く程、彼にそっくりだった。

髪型までそっくりそのまま同じ金色の髪、顔の作りも本当によく似ているし、何よりも、青年の透き通った碧い瞳は、彼のグラスアイそのものだった。 青年はあたしに向かってまっすぐ歩いてくる。あたしに何か用だろうか? 道でも聞きたいのかもしれないけど、あたしは日本語以外話せないし……。

そんな事を思っていると、青年はあたしの目の前まで来て、ゆっくりと形の良い薄い唇を動かした。

「はじめまして。あなたに会いに来ました」

「え? ……は?」

日本人と差の無い綺麗な発音の日本語。今の言葉は、異国の人なりの挨拶なのか冗談なのか……初対面の人にそんな事を言われても、反応に困る訳で。

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