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あたしの愛したガラスの瞳-2

青年は爽やかな笑顔でただあたしを見ていた。

「あ、あの……一体何なんですかね? 会いに来たとか言われても……」

青年はあたしの困惑した表情を見て、自身も表情を変えた。きょとんとしたような、そんな表情。角度や光の当て方を変えなくても表情が変わるのは、この青年が人形なんかではなく、生身の人間だから。

「え、あ、うーん……そうですよね。すいません……。僕、ここの事よくわからなくて……」

言いながら青年の表情はしゅんとしたような表情に変わった。

「ここの事がわからない……って事は道がわからないって事ですかね?」

彼は日本語が堪能ではあるけど、やはり異国の人だから時々間違った日本語を使ってしまうのかもしれない。だから、これがあたしなりの解釈。青年はあたしの言葉に一瞬何かを考えるような表情になって、それから大きく頷く。

「え、あ、そ、そうです!」

「で、どこに行きたいんですか?」

「んーと、えっと、コ、コンビニ!」

行きたい場所なのに考えた……? あたしは青年の挙動が少し気になったけど、とりあえずはコンビニまでの道順を説明した。 説明を終えてあたしが立ち去ろうとすると、青年は捨てられた子犬みたいな寂しそうな表情をする。 ……まぁ、コンビニはすぐ近くだし、モテない街道まっしぐらのあたしが、こんな人形みたいな顔した異国の美青年と関わる事なんてこの先無いだろうし、コンビニまでついて行こうかなぁ。

「あ、じゃあ、コンビニまで一緒に行きましょうか?」

そう言うと、青年の表情は途端に明るくなる。本当に表情豊かだなぁ。目まぐるしく変化する表情についていけないくらい。

コンビニにつくと、青年は驚いたような表情で、今度は店内をキョロキョロと見渡す。 青年の母国がどこかは知らないけど、母国にはコンビニが無いのだろうか? 青年は店内を見回してはあたしに質問を投げ掛ける。

「あの人達はなんで同じ服を着ているんですか?」

「店員さんだからね。あれはこの店の制服ですよ」

「あの機械はなんですか?」

「レジスターですよ。商品の合計金額やお釣りを計算したり、記録を録ったりするような機械です」

……彼の母国では、店の従業員は制服を着ていないのだろうか? レジスターは大概の国に有ると思うんだけど……タッチパネル式のものが珍しいのかな?

それからも店内のありとあらゆる物に対して青年は質問をし続け、あたしはそれにひたすら答え続けた。 よくもまぁ、コンビニに来ただけでこれだけ質問が思い浮かぶものだと関心すらする。 ようやく質問攻めから解放されて、腕時計に目をやると、結構な時間が経っていた。

「そろそろ帰らなくちゃ」

「そうですか。今日はありがとうございます」

そう言う青年の顔は、先程とは違い笑顔だったから、あたしはほっとしながら店を出る。 手を振りながらあたしを見送る青年の、左の口角を上げて笑うその表情が印象的だった。

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