アザミミチナミダミチ

あたしの愛したガラスの瞳-6

あたしは一度視線を落とし、それから改めて彼と目をあわせた。

「そうかもしれない。こんな姿になれたんだから、躯の繋ぎ目だって消えるかもしれないし、鼓動すら感じられるようになるかもしれない。……でも、例えそうなっても、あたしはあなたの恋人にはなれない」

「……僕が、人形だから?」

消え入りそうな声。碧く透き通ったガラスの瞳が、潤んでゆく。

「……違う。あなたが本物の人間になる事ができたとしても、それでもあたしはあなたの恋人にはなれない」

唾液を飲み込み、呼吸を整え、あたしは彼の滲んだガラスの瞳をしっかりと見据えた。

「……だって、あなたはあたしの可愛い我が子だから」

潤んだ碧い瞳が見開く。

「そりゃ、あたしがあなたを産んだ訳でも、作った訳でもないけど。あなたを含め、うちにいる全ての子達を、あたしは我が子として迎えたから。だから、あなたはあたしの可愛い息子。恋人にはできない」

あたしの手を押さえていた彼の手に力が入る。彼に鼓動があったなら、今どんな速さだっただろうか?

「どうしても? 僕はこんなにも人間に近付けるくらいに、あなたを愛しているのに……」

「どうしても。息子の恋人にはなれないから。でもあたしは、あなたを息子として、心から愛してる」

彼の潤んだ瞳から目を離さずに、あたしはそう言った。

「……そう」

ぽつりとそう発した彼を、あたしはそっと抱きしめる。碧いガラスの瞳からは、涙が零れ落ちた。

あたしはこの先、人形の恋人は作らない。人間の恋人も、きっとできないと思う。 でもそれで良い。 人間には入る事のできない人形の世界を、写真にするのがあたしの幸せだから。



――朝の光。 あたしはどうやらいつの間にか眠っていたようだ。 着替えもせずに床に寝ていたせいか、体中が痛い。 ふと顔を横に向けると、上半身の衣服を脱ぎ捨てた彼がいた。髪や肌の質感も、躯のサイズも人形の彼が……。

あれは夢だったのか、現だったのか……。作りはリアルでも、本物の人間には到底見えない彼を見つめる。 もう動かない彼は、涙を湛えたかのように潤んだ瞳で、どこか悲しげに微笑んでいた。

-END-

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