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花園の妖精、夢と現の狭間にて-2

悪魔は組織だって動いていて、そのほとんどは女性だった。悪魔達は性別に関わらず皆一様に白い服を着ている。だから私はだから私は悪魔たちのことを白い悪魔と呼んでいる。女性の悪魔のほとんどは奇妙な形をした帽子をかぶっていた。それが何の意味かはあたしにはわからない。この部屋に来た彼女もまた、同じ帽子をかぶっていた。

「落ち着きましたか? お薬の時間ですよ」

白い悪魔はあたしに毒を飲ませようとする。嫌だ。助けて……。 あれを飲んだらきっとあたしは死んでしまう……。あたしは必死に泣き叫んだ。

「落ち着いてください」

悪魔はそう言ってあたしに薬を飲ませようとする。これは毒薬なんだから、絶対に飲むもんか。あたしは身動きが取れないものの、必死に首を振って抵抗した。

「私はあなたが薬を飲むまでここにいますし、飲めば拘束を解きますから飲んでください」

悪夢はそう言いながら、あたしの頭を押さえ付け、顎を持ってあたしの口をこじ開けようとする。 仕方がない、飲むふりをしよう……。少しの間口の中に入れるだけなら平気だろう。あたしは仕方なく薬を口に含み、飲み込むふりをした。悪魔は疑う目であたしを見ていたから、なんとか喉を鳴らさなければならない。口の中の薬をうまく舌の下に移動させて、水だけを飲み込んだ。

白い悪夢はあたしが薬を飲んだと思って、拘束を解き、部屋を出ていく。 あたしはほっとしながら薬を吐き出した。 毒を飲まずにすんだ事に胸を撫で下ろしていると、部屋の外で声が聞こえる。

「大丈夫だった?」

「なんとか……」

「仕方ないのは解ってるけど、あの人には困ったものよね」

「本来なら牢屋行きな訳だし、私も殺されるんじゃないかって気が気じゃないわ」

片方の声はさっきあたしに毒を飲ませようとしたあの白い悪魔の声。もう片方はきっと他の白い悪魔だろう。声が遠ざかっていき、会話はそこまでしか聞こえなかったが、どういう事だろう? ……彼はこの世界を夢だと言った。これが本当に夢ならば、さっきの薬だって飲んでも平気だったろう。

けど、この世界は本当に単なる夢なのか? 悪魔が飲ませようとしたあの薬。悪魔達が言っていた事。……あたしはこの世界が本当に怖い。

しばらく考えているとノックの音がして、それからゆっくりと目の前のドアが開いた。入って来たのは優しげな顔で、髪に白髪の混ざった男性。この男こそ、優しげな顔をしてはいるが、白い悪魔達を統括している男だ。きっとこの優しげな笑顔の裏で、あたしを殺そうとしているに違いない。

「少しお話をしましょう」

男性の悪魔は笑顔を作りながら、穏やかな口調で言う。

「悪魔と話す事なんてありません」

「悪魔……ですか。私は人間ですよ」

ほら、優しげな顔をしていても、やっぱり悪魔は嘘つきだ。私を妖精の国からさらって監禁しているくせに。

「嘘つき悪魔! 私を妖精の国に帰して! あの人はどこなの!?」

言いながら悪魔の衿を掴むと、よくここへ来る女性の悪魔達に引きはがされ、体を押さえ付けられた。

「あの人とは?」

男性の悪魔はあたしが女性の悪魔に押さえ付けられている様を見ても表情を崩さず、冷静な口調で尋ねる。

「彼よ! 金色の髪に、新緑の色の瞳の……」

「ほう……」

「あたしと同じ、妖精の彼よ!あたしを妖精の国に帰してよぉ……」

あたしは言いながら泣き崩れてしまった。そんなあたしを見ながら、白い悪魔達は小声で話し合う。

「今は無理なようですね」

「落ち着いた頃にでもまた……興奮しているようですから拘束しましょう」

「はい」

悪魔達は暴れるあたしを拘束すると、部屋を出ていった。部屋の外からさっきの悪魔達の会話が聞こえる。

「彼女、自分を妖精ですって。ただのおばさんが妖精だなんて……」

あたしは正真正銘妖精だもの。あたしがただのおばさん……? それはあなた達悪魔が呪いをかけたからでしょう?

「コレ! そう言う事を言うんじゃない。ああいった妄想もこの病気の症状なのは君も知っているだろう?」

何を言っているの……? あれは妄想なんかじゃない! あたしは病気なんかじゃない!

「すみません。それにしても、彼女、いまだに病識が有りませんね」

「あぁ。この病気は病識を欠く患者が多いからねぇ……」

「彼女が言っている彼って……彼女が殺害した彼の事ですよね?」

殺害……? あたしが彼を……? 彼は生きているし、あたしが彼を殺すはず無いじゃない。

「恐らくそうだろうね。この病気による妄想や幻覚・幻聴はその人の知っている人物である事が多いからねぇ。彼女の知り合いで外国人というと、彼ぐらいだろうし」

「自分が殺したくせに『あの人はどこなの!?』なんて、ギャグにもなりませんよ。だいたい、相手にされないからって殺すなんて……」

「コレ!」

「あっ、すみません……」

 あたしは病気なんかじゃない。
 あれは妄想や幻覚なんかじゃない。
 あたしは彼を殺してなんかいない。
 あたしを妖精の国に帰らせて……!

-END-

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