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花園の妖精、夢と現の狭間にて-1

今日もまたあの夢……。ここ最近、毎日同じ夢を見る。夢の中のあたしは、何も無い真っ白な部屋に拘束されていて、白い悪魔達があたしを拷問にかけようとする。白い悪魔達があたしに迫り、体に痛みが走ると思った瞬間に目を覚ます。夢だと解っていても怖くて、ここ最近のあたしは気分が優れなかった。

「どうしたの? そんな浮かない表情をして」

彼は柔らかな金髪の下の翠色の瞳であたしを見つめながら、心配そうにそう言った。

「この前にも言った、あの夢のことを考えていたの」

あたしがそう答えると、彼はあたしを優しく抱きしめる。

「そうか……。でも大丈夫。怖くたって夢なんだから」

彼の言葉と体温は、あたしを安心させる。彼の胸に顔を埋めて、あたしは幸せを噛み締めた。

「花の蜜を吸いに行こう」

彼はあたしの手を取り、背中に光り輝く美しい透明な羽を揺らした。あたしも彼と同じように背中の羽を揺らす。あたし達は手をつないで空を飛び、花畑を目指す。柔らかな日差し。萌える若草。小さな花。見下ろす春の風景は、太陽の光を浴びて色鮮やかな生命力を見せ付けていた。

色取り取りのチューリップ畑に降り立ち、ピンクのチューリップの中に入って花の蜜を吸う。 お腹がふくれたら、そのままチューリップの中でお昼寝をするの。そう、あたし達は気ままな花の妖精。



また、あの夢……? あたしはいつもの白い部屋の中で、ベッドに横たわっていた。夢だと解っていても、ここにいる事が怖くて、あたしは泣き叫んでしまう。この場所にいるのが本当に怖い……。

そういえば、いつもは拘束されているのに、今日は拘束されていない。もしかしたら、ここから逃げ出せるかもしれない。 正面のドアからだと、あの白い悪魔達に見つかるかもしれない。あたしは泣きながらも、部屋を見渡す。窓はダメだ。格子がついている。仕方なく正面のドアを開けようと、ノブに手をのばすと、あたしはあたし自身の手の甲に、息を飲んだ。

抜けるように白く、きめ細かく、滑らかなはずのあたしの手の甲は、日に焼けてはいないものの、やや黄ばんだ色をしていて、皺だらけで、小さなしみがいくつか浮いていた。これがあたしの手……? こんなの嫌……!

とにかくこの部屋から、この世界から抜け出さなくちゃいけない。ドアノブをまわしてみるけれど、鍵がかかっていて開かない。ここから抜け出す事ができないなんて……。

気付くとあたしは喉が張り裂けそうな声で叫びながら、必死に開かないドアに体当たりしていた。必死に泣き叫びながら体当たりを続けていると、目の前のドアが開き、白い悪魔が現れた。悪魔はあたしを押さえ付け、そして……



――悪夢から覚めて、目の前に広がるのは花の咲き乱れるカラフルな景色。そして、目の前には金色の髪に新緑の瞳……愛しい彼の姿があった。

「……どうしてこんな夢ばかり見るのかしら?」

あたしが涙目でそう言うと、彼はいつも通りあたしを優しく抱きしめる。

「どうしてだろうね? でも、こっちが現実だよ」

「そうよね。あのね、さっきの夢で気付いたんだけど、夢の中のあたしは、若くはないみたいなの。手は皺だらけでしみがあって……」

夢の話をするあたしの手を、彼の手がそっと持ち上げて、あたしの目の前へ。

「大丈夫さ。現実の君の手は、こんなにも綺麗だ。心配なら湖を覗いてみると良い」

そう言って、彼はあたしを軽々と抱き上げると、そのまま空を飛び、湖へと向かう。湖の前でそっとあたしを降ろすと、こう言った。

「ほら、覗いてごらん。世界一可愛い僕の妖精さんが映っているはずだよ」

湖を覗き込むと、波打つ金色の髪に薔薇色の頬、深い海の色をした瞳に、背中には光輝く透き通った羽をもったあたしが映っていた。隣には、ゆるくウェーブのかかった金髪に、新緑の色の瞳、あたしと同じ羽を持つ彼がいる。

そうよね。こっちが本当なんだもの。あれはただの夢なんだから。

「これで解ったろう? もうくだらない夢の話はおしまいだ」

そう言って、彼は柔らかなくちづけで、あたしの唇をふさぐ。彼の舌があたしの舌を弄び、彼の手がゆっくりとあたしの服を脱がしていった。

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