気付くと私は森の中に立っていた。砂漠の中にいたはずなのに、どうしてだか森の中にいたのだ。夢でも見ているのだろうか。ここは一体どこなのか。ただ、私は森の中に立っていた。
鳥の鳴き声が聞こえる。辺りを見渡すと鮮やかな色の鳥たちがそこら中にいた。青い鳥、赤い鳥、黄色い鳥、鳥たちはその美しさを競うように羽根を広げていた。赤い鳥が木から飛び立った。降りた先にはもう一羽の赤い鳥。赤い鳥たちは仲よさげに寄り添っていた。
他の色の鳥たちも同じように飛び立ってつがいになる。私はただひとり。鳥たちに笑われているような気がした。
それにしても喉が渇いている。砂漠からいつの間にか森の中にいた。そんな不可思議なことがおこっても乾きは癒やされていなかった。森の中になら、どこかにこの乾きを癒やせるものがあるかもしれない。私は森の中を歩くことにした。
誰かが何かを話している声が聞こえる。振り向くと一羽の大きな灰色の鳥が「サミシイ、サミシイ」と呟いていた。その鳥は「アイシテ、アイシテ」と言いながら飛んでいく。降りた先には小さな青い鳥がいた。青い鳥は振り向きもせず飛び去っていった。
私は灰色の大きな鳥に近づく。鳥と目が合い、じっと見つめ合う。
「ワタシハアナタ。アナタハワタシ。ダイキライ」
鳥はそう言って飛び去った。鳥の飛んでいく方を目で追うが、あっという間に消えてしまった。
私はため息をつき、また森の中を歩く。暑い。喉が渇いた。そして心も渇いていた。
私を潤してほしい。ただ、ただ、水を飲みたい。
やみくもに森の中を歩く。濃い緑の森に、鮮やかな色の鳥たち。鳥たちは騒々しく愛の歌を歌い続ける。目も耳もうるさくて、早くここから抜け出したかった。
喉を潤すことができたら、この森を抜け出そう。ここがどこかも解らないし、森の外に何があるのかも解らない。それでも、この森を抜け出したかった。
どのくらい歩いたのか解らないし、ここがどこかも解らない。ただ、いつの間にか風が冷たくなっていた。
風の匂いを嗅いでみる。ムッとするような甘い匂いがした。毒々しいくらいに甘く、官能的な香り。風に乗って漂うこの匂いは、果物だろうか? 私はその匂いを追いかけるように早足で歩く。救いがそこにあるような気がした。
一歩踏み出すごとに甘い香りが濃くなっていく。ああ、もうすぐ! もうすぐ!
早くあの香りのある場所に行きたくて、私は走り出す。走って、少し立ち止まっては辺りを見回す。すぐ近くにあるはずだ。私への救い。私を潤すもの。
走っては立ち止まることを繰り返し、私はついに見つけた。細長い葉の生えた木、その木には鮮やかな黄色の果実が実っていた。辺りは気が狂いそうな程の濃く甘い香りが充満している。酔いそうなくらいの甘い匂いは私が手を伸ばすのを待っているかのようだ。
私は早速黄色い果物に手を伸ばす。すると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。
「バカネ」
それはあの鳥の声だった。辺りを見回してみるが、姿は見えない。
どうでもいい。私は早く目の前の果物を食べたい。私は再び黄色い果実に手を伸ばす。果物をもいで口をつけると、それはとても甘く、脳の奥まで果汁に浸かっているかのようだった。
脳も体も震えている。気が遠くなるくらいにそれは甘美なものだった。