アザミミチナミダミチ

ヌバタマノカミノカノジョ-3

――授業を終えた解放感にひたりながら伸びをしていると、机の上に本が置かれた。

「これ図書室な。よろしくぅ」

あたしの机の上に本を置いて、バカ教師はにやけ面で教室を出ていった訳で。くじ運の悪いあたしの席は教卓の真ん前だったりする。そのせいなのか、こういうしょうもない雑用を頼まれたりする訳で。

「自分で行けよなぁ! バカ教師が!」

あたしは悪態をつきながら机の上の本を抱えて図書室へと向かった。こういう雑用でもなければ、あたしは図書室には来ない。いつ来てもこの図書室の空気はなんだか肌にあわないし、あたし、本はファッション雑誌と……あとは恋空が流行った時にみんなで回し読みしたくらいだしね。

さっさとこれを置いて出ていこう……と、思いながら返すべき場所を探していると、ひとりの女の人が目に入った。上級生だろうか? にしては大人っぽい。教師の中にこういう人はいなかったはず。黒い髪の……。

あぁ、さっきあのクソビッチの事を考えながら黒髪を否定したあたしなんだけど……なんだか彼女のまわりが妙に光輝いていて、神々しいオーラをはなって見えるのはどうしてだろう? 長く艶やかな黒い髪は、古文かなんかの授業で出てきた『ぬばたま』って言葉がよく似合う。

ファッションは派手さは無いんだけど、落ち着いてるのになんだか挑戦的な部分もあって、洗練されてるって感じ。顔は彫りが深くて、どことなくエキゾチック。どっちかと言うとキツ目の顔なんだけど、可愛いとかキレイとかより美形って言葉が似合う顔だし、攻撃的な雰囲気が魅力になってる。……なんて美しい人なんだろう。

「どうしたの?」

あたしがぼんやりと見とれていたせいだろう。その女の人が近付いて話しかけてきた。近くで見てもその女の人は本当に美しい。ぬばたまの髪には枝毛ひとつ無い。白い肌にも毛穴ひとつ無くて、こういうのを磁器のような肌と言うんだろう。

彫りの深い顔立ちはちょっと日本人離れしていて、なんだか神秘的。メイクはきっちりしているんだけど、決してケバくはないし、それでいて男受け重視な感じじゃなくて、なんか隙が無いって感じ。大きな瞳は真っ黒なのに透き通っていて、カラコンでは決して出せない輝きを放っていた。

そして良い匂いがする。彼女が身にまとう香りはスパイシーで個性的だ。攻撃的と言っても良いくらい。でも、嫌いじゃない。むしろ、媚びるような甘ったるい匂いの女よりも、あたしはこういう香りを格好良くまとえる女性が好き。

あぁ、あたしは今気付いた。あたしは黒髪が嫌いなんじゃない。男に必死で媚びようとするその姿勢が嫌いなんだ。この女の人は物凄い美人だ。でも、彼女が神々しいオーラを放っているのは、美人だからじゃなくて、彼女のスタイルには媚びというものが一切見えないから。この人は、媚びない黒髪の女神様。

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