アザミミチナミダミチ

ヌバタマノカミノカノジョ-4

あたしは途端に自分が何か小さくてみすぼらしいものに感じた。あたしの自慢のミルクティー色の髪。手入れには気をつかっているから、明るい髪色にしては艶もそこそこあるんだけど、毛先はパサついていて、枝毛も沢山有る。

あたしの鼻、いちご鼻なんだよね。気にして色々なケア用品を試しているけど改善せず。化粧で隠してはいるけど、いつも気付くと鼻の頭にポチポチが……。女神様の毛穴レスな肌が羨ましい。

あたしのドールフェイスはカラコンとバサバサのつけまで作り上げたもの。でも彼女の前でこの鋼の装甲はただただ重いだけみたい。たとえ重たい装甲を脱ぎ捨てたって、無駄でしかない。あたしは素顔でもそこそこ整っている部類だと思うけど、女神様みたいな圧倒的な美女ではないし。

グレーの大きなカラコンを装備したあたしの目は、盛れてるかわりに生気も透明感も無い。カラコンは確かに盛れる。けど、カラコンをつけた瞳からは生気や透明感が消えてしまうし、時々目の焦点が合ってないように見える。おまけにあたしの白目は毎日のカラコンのせいか新生血管ができまくっていて、いつでも血走っているし……。

女神様は白目まで綺麗に澄んでいる。悔しさも感じないくらいの、圧倒的敗北。でも、なんだろう? ここまで清々しく負けていると、崇めるしかないのかな? なんて思っちゃったりして。

「ねぇ、どうしたの?」

「え? あ……」

女神様の声でふっと我に返る。あたし、本を持って固まっていたんだ。

「ねぇ、大丈夫?」

「あ、えっと、だ、大丈夫です。先生に頼まれたんですけど、この本どこに置いたら良いか解らなくて……」

あたしは取り繕うように持っていた本を突き出した。女神様はそっとその本のタイトルを覗き込む。そんな仕草さえも、なんだか優雅で美しかった。

「その本なら……」

女神様はそう言って歩きだす。あたしは少し慌ててそれについていく。

「ほら、ここ」

そう言って、女神様は図書室の本棚の一角でしゃがみ、あたしの方を振り向いて微笑んで指をさす。あぁ、キレイ……。見とれるような女神様の微笑み。うっかり吸い込まれてしまいそうな自分を必死で抑え、女神様の示した場所に本をしまい、お礼を言った。

「じゃあね」

女神様はそう言って微笑むと、図書室の出口へと向かう。あぁ、女神様が行ってしまう……。あたしは図書室から去ってゆく女神様の背中をただぼんやりと眺めていた。



女神様の正体を知りたい。そう思ったあたしは、翌日ライバルでもある友人達に聞いてみることにした。

「図書室にいた黒髪の美女かぁー。てか由紀黒髪嫌いなんじゃなかったっけ?」

「あたしが嫌いなのはさぁ、黒髪じゃなくて、男にやたら媚びまくってる清楚ぶった女だよ。図書室の女神様はそういうんじゃなかったしさ」

「あーね。由紀ちゃんくらいのコが女神様って思うくらいの黒髪美人でしょ? だったら十和子先輩じゃないかなぁ? 由紀ちゃんの言う特徴にも当てはまるし、超美人だもん」

十和子先輩……か。その人だと確定した訳ではないけど、女神様レベルの黒髪美女なんてそうそういない。特に、あたしらのグループメンバーが美人だと言うならかなり信頼できる。男の言う黒髪美女は女から見ると大体が垢抜けないからさ。

十和子先輩はこの高校の三年生らしい。あたしの見た女神様は高校生には思えない大人っぽさだったんだけど、十和子先輩も彫りの深い顔立ちのせいか、ちょっと高校生に見えないくらい大人っぽいらしい。十和子先輩という人があの女神様なんだろうか?

Return Back Next

Copyright © 2018 アザミミチナミダミチ

Template&Material @ 空蝉