アザミミチナミダミチ

あたしの愛したガラスの瞳-4

アパートに帰りつくと、やっぱり違和感。人形はきちんと 全員揃っているけれど、何かこう……しっくりとこない。位置が、少し違う? まさかそんな、人形が自分で動くはずは無いし、きちんと施錠したし、部屋も荒れていないし、確認しても何ひとつとして無くなったものは無い。

やっぱり気のせい……?



予想はしていたけれど、今日も青年はその場所に居た。今日も撮影はできそうにないけど、仕方ないかな。今日はどこへ行こうか?

……そんなこんなで、仕事帰りには毎日その場所に青年が立っていて、あたし達は毎日二人で過ごすようになっていた。仕事帰りに他の町まで行く気力は無いから、毎日この何も無い町を歩くだけだけどね。

「最近構ってやれなくてごめんね」

なんて、人形達に呟きながらも、会社帰りに青年と町を歩く日々。

あたし達はこの町を散々歩きまわった。青年が新鮮な反応をしてくれるから、あたしもこの町を新鮮な気持ちで見る事ができるし、何よりも青年の目まぐるしく変わる表情を見るのが楽しい。 多分、飲食店や他人の家以外はほぼすべての場所に行ったと思う。



……そして今日、あたしは青年を、あたしが住むアパートの部屋へ招待する。 所狭しとリアルな作りの人形達が、部屋中にびっしりと列んでいるその様を見て、青年は気持ち悪く思わないだろうか?

あの青年に限ってそんな事は無いと思いたいけれど、部屋に入れるという事は、もしかしたらそういう関係になるかもしれない訳だし……なんて思いながらも、いつもの場所で青年と合流して、アパートへ向かっているんだけどね。工場地帯を抜けて、あたしのアパートへ。二人でアパートの階段をのぼる足音が、やたらと反響して聞こえた。

「あの、あたし、人形を集めるのが趣味でね、その……いっぱいあるんだけど……」

「大丈夫です」

人形について何か質問をしてくるかと思ったけれど、青年は笑顔でただそう答えた。 狭くて急な階段を四階まで上り、くすんだ茶色いドアを開ける。大丈夫とは言われたものの、あたしは表情を窺いながら青年を招き入れた。狭い1Kの部屋にずらりと人形がならんでいるのは、あたしには見慣れた光景だけど、一般的にはやはり不気味だろう。

「やっぱり、こんな人形だらけの部屋は気持ち悪いでしょ?」

あたしは言いながら改めて部屋の人形達を見回した。すると……彼がいない! 何故? でも青年の前で騒ぎ立てる訳にもいかないし……。

青年は今まで田舎のごく当たり前の風景を見てはいちいち驚いていたのに、何故かこの部屋を見ても驚かず、落ち着いた表情をしていた。あたしは彼がいない事で内心落ち着かない中、彼は静かに奥へと進む。 部屋の真ん中辺りで立ち止まり、そしてゆっくりと、着ている衣服を脱ぎだした。

そりゃあ、大人の男女がひとつの部屋にいるんだから、無くは無いとは思っていたけど、部屋に入ってすぐだなんて……。

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