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木造平屋のアパートにて-15

「本当に!? ねぇ! その人おじさんの知り合いなの!?」

おじさんは煙草を落としてしまいそうになりながら、少し困った顔をしていたわねぇ。けど、その時のあたしはあの絵をもう一度見られるかもしれないという事で頭がいっぱいだったの。

「嬢ちゃん、落ち着け。知り合いっつう知り合いじゃねぇよ。それにあの坊主が嬢ちゃんの探してる男とは限らんしな。行きつけの店の常連にそんな感じの絵描き坊主がいたってだけだ」

勢い良く早口で喋るあたしとは対照的に、おじさんの声はずっと落ち着いていたわね。

「おじさん! それってどこのお店なの!? 今から行ったらその人いる!?」

「店ならほら、あそこだ。行ってあの坊主がいるかどうかは俺ぁ知らねぇよ」

おじさんの説明はかなりわかりにくかったけど、このアパートで数年暮らしていればあそこという抽象的な言葉でわかっちゃうものなのよねぇ。

「ありがとう! おじさん!」

あたしはおじさんにお礼を言うと、例のお店に向かって一目散に駆けていったわ。



おじさんの言うお店であろうお店につくと、あたしは深呼吸をしてから、あまり綺麗とは言えない扉を開けてお中へと入ったわ。細長い店内にお客さんは数人。カウンターの中には少し化粧の濃いおばちゃんがいたわね。

その数人の後ろ姿を確認すると、その中のひとりはモサッとした天然パーマでひどい猫背だったわ。そう、あの川原で絵を描いていた男の人、おじさんの言うところの絵描き坊主に間違いないわ。あたしはその後ろ姿にそっと近付いて、それからトンッと軽く肩に手を乗せながら、こう呟いたの。

「見つけたよ」

「んぁ?」

彼は振り返ってあたしを確認すると、「あぁ、あんたかー。また会ったなぁ。また会ったんならしょうがねぇかぁ。約束どおり、オレの絵、見せてやんよぉ」そう言って立ち上がったの。そして左手でお尻のポケットをまさぐって、取り出した小汚ない財布からくしゃくしゃのお札と汚れた小銭を出して、カウンターへと投げたわ。そして半開きの目であたしを覗き込むと、こう言ったのよ。

「じゃあ、行くかー」

「へ?」

あたしが戸惑っていると、彼は曲がった背中をもっと曲げて、ずずいと顔を近付けたの。

「見んだろー? オレの絵ー」

「え? 今からなの?」

あまりの展開にあたしが焦っていると、彼はふいっと背を向けて、お店の出入口へと歩いていったわ。あたしも彼を追いかけて店の出入口の方へと歩いていったわ。そしたらさ……

「ちょっと待ちな!」

そう言ったのは店のおばちゃんだったわ。そして、続けざまにこう怒鳴ってきたのよ。

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