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蝶になるということ、飛び立つということ-6

あたしは就職活動のためにスーツを身にまとう。鏡の中には、格好良くスーツを着こなすスラリとした細身の女が写っていた。あたしがこんなにも美しくスーツを着こなせるのは、あたしのスタイルが元々美しいから。

あたしは小顔だし、細身だし、股下だって長い。ダイエットして細身になっても、骨格は変えられない。医学の力を借りても、変えられない部分なんてそれこそいくらでも有る。あたしはその天性の部分で人より勝っている。あたしの後ろ姿を見てナンパしようとした男達が、何度となくあたしの顔を見て残念がったっけ。今はその顔だって美しい。

ほんの少し医学の力を借りたけど、あたしだからこそこのレベルまでこれたんだとあたしは思っている。あたしは凄く綺麗だ。ここまで綺麗になれたのも、あたしの元が良いからだ。今のあたしならば、笑われ役になるなんて事は無い。次の職場ではあたしがあの娘のポジション。

例え何か振られたって、今のあたしなら首を傾げてかわせば良いし、笑われ役になる事で自分の立ち位置をなんとか守っている可哀想な人間には、カースト上位の立ち位置から、余裕の笑みをプレゼントしてあげる。

……そう。あの娘みたいにね。



新卒時の就活であれほど苦労したというのに、仕事はあっさりと決まった。新卒ではないから会社のランクをほんの少し落としたからか、それとも顔か……。顔のおかげだと思ってしまうのは、新卒での就活の時、先に内定をもらった娘はされたと言っていたけど、あたしには一切無かったセクハラまがいの質問を、今回はされたから。

「えぇ~。セクハラ質問無かったんだぁ。良いなぁ。羨ましい。超キモかったよぉ」

新卒時の就活の時に、そんなことをあたしに言った娘がいたっけ。その娘はあたしを羨ましいと言いつつも、その目はあたしのことを見下していた。



仕事を始めて数日。あたしの歓迎会という名目で飲み会が開かれた。蝶になるのを心に決めた日を思い出すかのような、安いチェーンの居酒屋。そして、どこにでもいる下品な自称ドSキャラの男が、冴えないブスをいじって笑いを取っていた。自分を貶める事なんて一切せず、他人を貶めて笑いを取ろうとするゲスな自称ドSキャラも、嘲笑されている事に気付いているのに、それに甘んじるしかないブス女も、どっちも醜くて大嫌い。

その醜い光景を眺めていると、それはあたしにもふられた。あたしは以前からイメージしていた通りに、小首を傾げてそれをかわす。

「感じ悪い」

あたしが小首を傾げた後そう呟いたのは、ここにいる中であたしを除いて一番マシな顔の女。 雰囲気美人とでも言うのか、そこそこモテそうでは有るけれど、厳密には美人と言えない顔の女だった。その女が呟いた後、男達は一斉にその女をたしなめるし、あたしを必死に庇う。女は悔しそうな目であたしを見ていた。

……きっと、あたしが来るまではその女こそがちやほやされるポジションだったのだろう。

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