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蝶になるということ、飛び立つということ-7

可哀想にね、雰囲気美人さん。かっちり作りこんだメイクも、キレイに巻かれたミルクティー色のその髪も、ファッション雑誌から出てきたみたいなその服装も、あたしの完璧な美しさの前では何もかもが霞んで見えるものね。あたしは可哀想なその女に、哀れみの笑みをプレゼントしてあげた。その女は、ますます悔しそうな顔でこっちを睨んでいた。

この職場ではあたしこそが新たなる女王だ。あたしが何か持っていれば、男性社員がすかさず駆け寄って来るし、あたしをお姫様みたいに扱ってくれる。そして、それを他の女性社員は、羨ましそうに、そして妬ましげに見ている。あぁ、なんて気持ち良いんだろう。

本当に、カースト上位というのはとても居心地が良い。カースト下位の女達があたしの事をあれこれ言っていたとしても、あたしは鼻で笑っていられる。それがカースト上位であるあたしの余裕。



そんなこんなでこの職場へ来て早数ヶ月。あたしは今でもこの職場での立ち居地は女王様だ。男達は相変わらずあたしをお姫様扱いして、女達はそれを見ては悔しがっている。ただ、女達があたしへの負け惜しみであれこれ言っている中に、最近、不穏な内容が混ざっているのが、少し気になった。 前から言われていた性悪だのなんだのなんていうのは正直どうだって良い。

「あのクソ女、自慢の顔も整形らしいよ?」

あたしが気にしているのは……これだ。きっと単なる負け惜しみに過ぎないし、本当の事なんて知っていて言っているはずはない。そこで変に騒ぎ立てればむしろその事実を肯定する事になってしまう。

そう思って、あたしは反論してやりたい気持ちをぐっとこらえ、やり過ごしていた。それがいけなかったんだろうか?

職場の女達があたしの噂話をする時には、「パチモンのくせに」だの「エセ美人」だの「顔面工事」なんて言葉が頻繁に飛び交うようになっていた。

この話題が出るようになった最初の頃は、単なる噂話のひとつとして、語尾にも“らしい”と、付けていた。しかし、最近ではあたしの美容整形はもう決定事項かのように“らしい”も付けずに当たり前に話している。証拠は誰にも掴まれていないはずなのに。でも、もう職場の女達の中ではあたしが整形女なのは決定事項とされてしまったようで、そしてその頃には、その噂話は女達の間だけの話ではなく、職場の男性社員達も知るところとなっていた。

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