アザミミチナミダミチ

ヌバタマノカミノカノジョ-5

十和子先輩は三年A組だそうだ。三年生の階に行くのはちょっと怖いなぁ。図書室行ったらまた会えるかな? 字ばっかりの本ってすぐには読み終わらなさそうだから、いつも図書室にいるとは限らないか……。やっぱり十和子先輩のクラスに行くのが一番確認しやすいかも。

あたしは今日十和子先輩という人を見に行くことに決めた。帰りのショートホームルームを終えたら速攻で教室を出て階段を駆け上がり、三年のクラスの並ぶ三階へ。三年A組の前に立ち、教室から出ていく先輩達をひとりひとり観察する。既に教室を出てたら意味無いんだけどさ。

教室から出てくる先輩達。髪色の校則が無いから茶髪ばっかりだ。黒髪もいるけど眉毛すら整えていない、なんとなくオタクっぽい人だったりで、女神様とは全然違う。教室に残っている人はあと少し。教室の中にいる先輩達の容姿はここからじゃちょっとわからない。

あの残っている人たちの中に十和子先輩はいるんだろうか? 十和子先輩こそがあの女神様なんだろうか?

あと少しで教室から人がいなくなってしまう。誰一人見逃すまいと、あたしの目は教室の出入口を穴のあくくらい注視する。

――その時、世界が一瞬時間を止めた。賑やかだったはずのこの空間から、音という音が消え去った。光輝くオーラをまとった女神様が、教室からゆっくりと出て行く。あたしの目が何か高性能なカメラか何かになったみたいに、それはスーパースローで映し出され、自動的にズームになる。間違いない。あの図書室の女神様がそこにいた。

あたしは話しかけようとして、口を動かす。でもそれは声にはならなくて、ただ間抜けに口が動いただけだった。

女神様が行ってしまう……。そう思いつつも、あたしはただ何もできず女神様を見つめているだけしかできなかった。

その時だった。

「あら? あなた図書室にいた娘? どうしたの?」

女神様が、あたしに話しかけてきた。どうしてだろう? 女神様の問いかけに答えたいのに、何も言葉が出てこない。

「え、あ、あの……」

なんとかここまで声を絞り出したけれど、そこから先は言葉にならなかった。

「このクラスの誰かに用事? ほとんど帰っちゃったけど、残ってる中の誰かなら、私が呼んでこようか?」

用件を言い出せないあたしに十和子先輩は助け船を出してくれる。言いたい。いや、言わなくちゃ。あたしはあの女神様が十和子先輩かどうかを確かめに来たのだから。

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