「あの! あたし、図書室で先輩を見て、すごく綺麗な人だなって思って、それで、友達に聞いたら十和子先輩じゃないかって……だからあたし、十和子先輩に会いに来たんです!」
あたしのその言葉に、十和子先輩は神々しい笑みを浮かべる。
「私に会いに? ふふふ、ありがとう」
その穏やかな口調だとか、口角の上げ具合だとか、本当に何もかもが光輝いていた。
「あたしあの時一瞬で虜になったっていうか、マジリスペクトなんです!」
「ありがとう。でもあなたもすごく、可愛いと思うわ」
ああああ。女神様の十和子先輩に可愛いなんて言われちゃったぁ。あああ、どうしよう……。そのまま宇宙の彼方まで飛んでいっちゃいそうな気分なんだけど、せっかくあの女神様と再会できたんだもん。お願い、しちゃおうかな?
「あ、あ、あの、もし良かったらで良いんですけど、アドとか教えていただけたりとか……」
やっぱいきなりだし断られちゃうかな? 十和子先輩は少し考えるように目線を右上に向けた後、あたしにゆっくりこう言った。
「そう……ね。あなた悪い子ではなさそうだし。でも私、あなたの名前すら知らないのよ?」
そうだ。あたしと十和子先輩は名前すら知らない関係なんだ。
「あ、あたし、名前は相川由紀っていいます! クラスは一年C組で、あと他にも知りたいことがあったら、なんでも答えるんで!」
でもダメ元で自己紹介をしてみる。十和子先輩はそんなあたしを見て、少し吹き出すように笑った。
「ふふっ。本当に可愛いのね。じゃあ、由紀ちゃん、アドレス交換しようか?」
アドレスコウカンシヨウカ? アドレス交換しようか……? アドレス交換しようか! 言葉の意味を認識したあたしは一気に舞い上がった。 十和子先輩とアドレス交換!
「え!? ほ、本当に良いんですか!?」
「えぇ。じゃあ、赤外線で良いかしらね?」
十和子先輩はにっこりと笑い、鞄から携帯を取り出して、赤外線通信モードにしてこっちへ差し出した。あたしもそれを見て慌てて携帯を取り出し赤外線通信モードにしようとする。緊張のせいか、手慣れているはずの操作に戸惑ってしまい、少し時間がかかってしまった。
そしてお互いの携帯を近付ける。携帯が近付いただけなのに、少しドキッとした。十和子先輩の指、細くて長くてキレイだな……。まるで手タレみたい。手入れが行き届いてて、ささくれひとつ無い。ネイルはシンプルで上品。完璧すぎる!夢にまで見たあの女神様のアドレスを手に入れて、あたしの心は弾んでいた。