アザミミチナミダミチ

ヌバタマノカミノカノジョ-7

帰り道、あたしは十和子先輩への初メールの内容を必死に考える。文字を打ち込んでは消し、また打っては消し……。ただメールを作成するだけなのに、あたしの手はしっとりと手汗をかいていて、携帯のボタンを滑らせる。

あたし、自分から愛の告白はしたことないんだけどさ、きっとそれくらい緊張してる。もっとかも。だって相手はあの女神様なんだから。何度も何度も推敲して、やっとこさメールを作り終えたあたしは、深呼吸をして、ゆっくりとメールを送信した。

多分だけど、すぐに返信は無いと思う。勝手なイメージだけど、なんか十和子先輩はそういう人っぽい。あたしは開いていた携帯を閉じずに、今度は素早く違う名前を探し出す。いつもあたしの髪を切ってる美容師の名前。

十和子先輩へのメールとは違って、何の躊躇も緊張も無く一瞬でメールを作る。「今から行って平気?」たったこれだけ。「いいよ」返信もたったこれだけ。

あたしは一度家に帰ったりはせず、そのまま啓ちゃんの勤める美容室へと向かった。



小洒落た感じのサロンのドアを開け、いつもあたしの髪を切る啓ちゃんの姿を目で探した。清潔感のあるサロンの中で働くスタイリスト達。その中で、明るい茶髪に軽くパーマをかけたやや長めの髪、細身のジャケットに細身のパンツ、先の尖った靴を履いた男……啓ちゃん発見。あたしは啓ちゃんと目を合わせると軽く手をあげた。 啓ちゃんも軽く方手をあげてゆっくりと近付く。

「よぉ由紀。てかこの前来たばっかじゃね? 今日どうすんの?」

いくらあたしの方が年下だからって、お客様に対する言葉とは思えないこの口調……。でも、あたし啓ちゃんのそういうとこも結構気に入ってんだけどね。なんか希望が伝えやすいっていうか。あとやっぱ何気にセンス良いし。

「あのさ、黒髪にしたいんだよね」

「は? お前の高校髪色の規則ねぇんだろ? いきなり校則が厳しくなったのか?」

……ま、今まで明るい髪色にしてたあたしがいきなり黒髪にするとか言ったら、普通はそう思うよね。

「校則は変わってないよー。あたしの気分が変わったの。あたしね、生きた女神様を見つけたの。あたしが真似してその人になれる訳じゃないけどさ、ほんの少しでも近付きたくて」

「へー、由紀が女神様とか思うレベルの女かぁ。ちょっと見てみてぇな。で、具体的にはどんな感じ? こん中で似てんのある?」

啓ちゃんは言いながら雑誌をパラパラとめくった。しくったなぁ。十和子先輩の写メでも有れば……。

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