アザミミチナミダミチ

ヌバタマノカミノカノジョ-8

あたしは雑誌の中から十和子先輩の髪型に近いものをなんとか選びだし、細かい部分をきっちりと指定した。シャンプーの最中、啓ちゃんはあたしにたずねる。

「本当に黒にする訳? 黒にしたらしばらくの間は元の色に戻せねぇぞ」

「するよー。十和子先輩に一歩でも近付きたいんだもん」

椅子に座ってカバーをかけた後も、また啓ちゃんはあたしに聞く。

「本当に良いんだな? マジしばらく色入んねぇかんな」

「だから大丈夫だって。すぐに気が変わって戻したくなるとか無いから」

あたしが黒髪にするって、やっぱ意外なんだろうね。カットの最中、啓ちゃんは言った。

「しっかし、由紀が黒髪なぁー、あの髪色こだわってたのに。俺が高校の時なんか、校則厳しくて茶髪なんか無理だったし、髪が学ランの襟についただけで呼び出されたりとかさ、女子なんか教師がメイク落としシート持ってさ、無理矢理ゴシゴシ化粧落とすんだぜ?」

「ありえなーい!」

あたしの高校と比べると相当厳しい。でも、一般的にはそれくらいが普通なのかも?

「あり得なくねぇよ、ホントの話。お前の高校が緩すぎんだよ。勿体ねぇよなぁ、せっかく校則緩いのに黒にするとか」

「だって、十和子先輩はあたしの女神様だからさぁ」

「由紀が髪黒くしてまで近付きたい女神様かぁー。ちょっと見てみてぇな」

鏡に映る啓ちゃんはあたしの髪を切りながら、あたしの言う女神様を想像しているみたいだった。「完璧に美しくて、まったく隙が無くて、腰抜かすくらいのオーラまとった、そんな人だよ」鏡に映る自信満々のあたしの笑顔。十和子先輩はまさしくそんな感じの女神様だからね。

あたしは真っ黒な髪になり、十和子先輩とそっくり同じ髪型になった。でも、鏡の中にいる、十和子先輩と同じ髪型のあたしは、上下バサバサのつけまだとか、グレーの大きなカラコンだとか、濃いめに入ったチークなんかが浮いて見えて、メイクと髪型がどうにも合っていないように見えた。……メイクも変えなきゃいけないな。



いつもメイクのために早起きなあたしだけど、今日はさらに早く起きた。窓の外は薄暗いを通り越してまだ真っ暗だ。少しでも十和子先輩に近付きたいあたしは、今日からメイクを変える。新しいメイクには試行錯誤が付き物だし、普段の慣れたメイクとは勝手が違うし。

鏡の中には黒髪でスッピンのあたし。さぁ、これをどうやって十和子先輩に近付けよう?

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