アザミミチナミダミチ

ヌバタマノカミノカノジョ-10

頭の中にあの女神様を思い描いて、できるだけ必死で似せたのに、どうにも似なかった。っていうか、がんばってもがんばっても、鏡の中のあたしはなんだか垢抜けないんだよね。どうしてだろう? 十和子先輩はあんなにも洗練されていて、あんなにも綺麗だというのに。

特に、いつもはベージュ系のヌーディーカラーしか使わないリップメイクを、十和子先輩を真似てハッキリした色にしてみたんだけど、なんか肌の色と合ってないんだよね。色はまさしく十和子先輩の色そのものだと思うんだけど、あたしにはどうにも似合わないみたい。これがパーソナルカラーの違いというヤツか。

あたしは仕方なしに手持ちのカラーをリップブラシに含ませ、上から塗り重ねて色みを調整した。……いくらかマシにはなったかな。これならまぁ見れる。納得のいく出来ではなかったけれど、これ以上メイクに時間をかけてたら遅刻しちゃうしね。

今日の制服のコーデはどうしようか? シンプルかつ涼しげにシャツは水色にして、スカートは久しぶりに無地の紺色とか。リボンは……そこまで考えて、はたと気付く。十和子先輩は私服の高校でわざわざなんちゃって制服を着るようなタイプの人間ではないだろうという事に。

図書館で出会ったあの時も、私が教室に行った時も、私服だったし。着ようとして手にとっていた水色のシャツと紺のスカートを元の位置に戻し、あたしは私服を漁った。

どれもこれも十和子先輩のイメージとは違う。あたしは手持ちの服の中からどうにか十和子先輩のイメージになるべく近いものを選び出し、身に纏った。今度服を買いに行こう。十和子先輩のよく行くショップとか、教えてもらわなきゃ。



登校したあたしを見たクラスメイト達はみんなあたしの変化に驚いていた。

「どうしちゃったの!? 親とか別に厳しいタイプじゃないよね?」

「まさか男受け狙いとか言わないよねぇ? 由紀さぁそういうタイプすっごいバカにしてたじゃん」

「バイト始めるとか? やっぱ髪色派手だと受かんないとこ多いしねぇ」

特に同じグループのメンバー達はどうしてあたしがこうなったのか、気になっているみたい。

「どれも違うよ。あたしは今でも男受け狙って清楚ぶってる女は嫌いだしさぁ、バイトもするつもり無いよ。まぁ、なんつの? 心境の変化ってヤツ?」

「あ、それってもしかしてさぁ十和子先輩の影響?」

図星を突かれてしまった。このグループのメンバーはあたしが同じ土俵で戦っている女達なだけあって、下手なごまかしはきかないなぁ。

「うん。まぁ、正直に言うとそうなんだよね。十和子先輩を見てさぁ、衝撃を受けたっていうか」

「あぁね、十和子先輩スッゴい綺麗だもんねぇ。あれだけ綺麗な人見ちゃったら由紀ちゃんレベルでも影響受けちゃうもんなんだね」

「何て言うかぁ、十和子先輩はマジ別格だもん。そりゃ由紀も影響されるよね」

それからグループのメンバーは十和子先輩を口々に誉め称えた。あたしの女神様は彼女達から見ても神々しい光を放っているみたいで、それがなんだかやたらと嬉しかった。十和子先輩はやっぱり女神様なんだって。

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