アザミミチナミダミチ

ヌバタマノカミノカノジョ-11

ただ……「由紀ちゃんは黒髪にしてもやっぱり由紀ちゃんだけど、黒髪も可愛いよ」そう、やっぱりあたしは女神様には到底なれないみたい。そして、彼女のこの表情、この微妙な薄ら笑い。言葉では褒めているけれど、今のあたし、彼女から見てどうにもイケてないみたい。

あぁ、やっぱりか。今朝、鏡の前で必死に格闘した時にあたし自身実感した事だけど、髪を黒くした途端にあたしの顔は一気にモサくなった。十和子先輩は黒髪ながらもあんなにも洗練されていたのに。

黒髪でオシャレに見せるのって難しいんだよね。野暮ったくなったり、田舎臭くなったりとかしてさ。茶髪と黒髪とでは似合う服装も違ってくるし。あたしの手持ちの服を黒髪で着ると、『田舎の中学生が必死にがんばって背伸びしてる』みたいな妙なちぐはぐ感しか産まれないし。茶髪の時はちゃんと似合ってたんだけどなぁ。

でも良いの。あたしがこれから着る服は、今まで着ていた服じゃないから。あたしがこれから着るのは十和子先輩と同じショップの服。早く十和子先輩に行きつけのショップ聞いとかないとなぁ。

そりゃあ、十和子先輩と同じショップの服を着たからってあたしが十和子先輩になれる訳じゃないのは解ってる。手が届かないからこその女神様な訳で。でも、それでもあたしは十和子先輩に一歩でも近付きたいんだ。笑うなら笑えば良い。

あたしは授業中にこっそりと十和子先輩へのメールを打っていた。やっぱり十和子先輩へのメールは緊張する。あたしが十和子先輩を目指す上で聞きたい事は山ほど有るけど、質問攻めはどうかと思うから、今はひとつだけ。

打っては消し、打っては消し、やっとこさ納得のいく文ができて送信したんだけど、送信してからもあたしはなんだか落ち着かなかった。十和子先輩は授業中に携帯をいじるタイプではなさそうだから、返事はきっと放課後だろう。解っているのに待ちきれなくて、あたしはずっと携帯を握りしめていた。



放課後。あたしは結局返信を待ちきれなくて、十和子先輩の教室へと走っていた。メールの返事だってそりゃ嬉しいけど、やっぱり十和子先輩の神々しいお姿を眺めたいし。教室の前で、またもあたしは十和子先輩の姿を探す。あぁ、早くお会いしたい!

しばらく教室から出て行く三年生達を眺めていると、男性の平均より高いくらいのスラッとしたモデルみたいな長身に、艶やかな黒髪。十和子先輩だ!

「十和子先輩!」

あたしの声に十和子先輩は振り向いて立ち止まる。一瞬何かを考えるような表情をした後、優雅な足取りでこっちへ向かって歩いてきた。

「由紀ちゃんだったのね。黒髪になってたから、一瞬わからなかったわ」

「はい! 十和子先輩があんまり素敵なんで、私も黒髪にしちゃいました。変……ですか?」

十和子先輩はほんの少し膝を曲げて、そうたずねるあたしと目線を合わせる。黒髪のあたしをしばし眺めた後、上品に口角を上げてこう言った。

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