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ヌバタマノカミノカノジョ-12

「そうねぇ。今は由紀ちゃん自身が黒髪の自分に慣れてないみたいね。もう少し待ったらきっと馴染んでくると思うわ」

あぁ、やっぱり十和子先輩は女神様だ。友人達の微妙な表情での可愛いって言葉とは全然違うもの。多分、今のあたしの頬は、薔薇色のチークよりも色付いているだろう。

「ありがとうございます。十和子先輩、十和子先輩の行きつけのショップを教えてくれませんか?」

あたしの問いに、十和子先輩はほんの少しだけ笑みをこぼす。

「由紀ちゃんって真似っこさんね。でも、真似されるのも意外と悪くないわね。私の行きつけは……」

「ありがとうございます! 早速お洋服買いに行きます!」

少し興奮して、声のキーがいつもより高くなる。

「で、由紀ちゃんは私と同じ髪型にして、私と同じショップの服を着て、それからどうするの?」

十和子先輩は穏やかな笑顔と静かな声であたしに問うた。あたしはその問いについて、自分なりに思いを巡らせてみる。

あたしは男に必死で媚びる女が嫌い。媚びるためにわざと垢抜けない格好をする女が嫌い。媚びるために清純を装う女が嫌い。媚びるために無知なふりをする女が嫌い。媚びるためにわざと隙を作る女が嫌い。男のプライドを傷付けないためにわざわざ自分を下げるような誇りもプライドも無いような女が嫌い。

そして、そういう女を好む男も嫌い。

そりゃあね、日本のほとんどの男は十和子先輩みたいな物凄いオーラで、媚びも隙も無い八頭身の長身美女よりも、うぶで、微妙に垢抜けなくて、隙だらけで、ちょっとおバカさんで、男の話す事にはなんでも感心しながら聞いてくれるような、そんな男のコンプレックスを刺激しない女の方が手を出しやすいんだろうけど。

あたしに言わせてみりゃ、そういう女を選ぶ男は底の浅いカス男なんだけどね。十和子先輩みたいな他を圧倒する女神様には、並大抵の男だったらきっと手は出せない。十和子先輩のスタイルには、媚びも隙も全く無いから。

あたしは意を決して口を開いた。

「あたしがどんなに真似をしたって十和子先輩にはなれないのは解ってます。でも、それでもほんの僅かでも良いから十和子先輩に近付きたいんです! 十和子先輩は私の女神様なんです!」

顔が熱い。今多分、あたしの顔、真っ赤だと思う。そして、目の前の十和子先輩が微妙ににじんでる。あたし、涙目なのかも。どんなモテモテのイケメンくんと遊んでも、こうはならなかったのにさ。ホント完敗。

にじんだ女神様はどんな絵画よりも美しい微笑を浮かべて、あたしに言った。

「ありがとう。そう言ってくれるの、凄く嬉しい。でもね、由紀ちゃん、自分を見失わないようにね」

あぁ、十和子先輩……あなたへの信仰心こそが、あたしの行く道なのです。

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